環境因子としての薬 (Envirome: Medicine)

環境因子としての薬 (Envirome: Medicine)

薬剤師の視点で環境因子(要因)と薬について述べます。
まず、薬とは何かについて、薬の作用と副作用、環境要因そして遺伝要因と薬について述べます。
季節の例や医薬品の実際の例などを記載させていただきました。環境因子としての薬について、理解の一助として下さい。

薬とは?

日本においてはどれが薬でどういうものか?ということは薬事法というもので決められています。法律では「医薬品」といいます。

薬事法第二条を読んでみましょう。

この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具、歯科材料、医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」という。)でないもの(医薬部外品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)

これを読んでみると、身体の構造や機能に影響を及ぼし、病気の診断、治療、予防に使われるということがわかります。
この医薬品に含まれている身体の構造や機能に影響を及ぼす成分を有効成分と呼びます。
有効成分を単に薬とよぶことがあります。以下の「薬」は有効成分の意味で使います。

それでは、薬はどのような成分なのでしょうか。薬は身体の構成成分を似せて作られています。身体の構成成分そのままのものもあります。そして、その薬は身体の中に吸収されて、身体の構成成分のかわりに働きます。あるいは身体の構成成分とはやっぱり違うので、本当の身体の構成成分が働かないようにブロックしてしまいます。働くのか、働かないようにブロックするのかは薬の化学的構造次第です。

薬の作用と副作用

身体の構成成分を似せて作られている、あるいは身体の構成成分そのままというのが薬でした。薬が身体の構成成分のかわりに働くのか、働かないようにブロックするのか。
わたしたち期待通りに働くことを作用とよび、期待通りに働かないことを副作用とよびます。わたしたちがどういう期待をするか?ということで作用であったり副作用であったりします。
コデインリン酸塩という薬を例にとります。この薬はオピオイドμ受容体の働きを促進します。
μ受容体の働きを促進すると身体の中で色々な事が起こります。
咳中枢への知覚入力を抑制する働きがあります。結果、咳が止まります。
また、腸での蠕動運動を止めるという働きがあります。結果、下痢が止まります。
知覚神経への知覚入力を抑制する働きがあります。結果、痛みが止まります。
延髄の呼吸中枢を直接止める働きがあります。結果、呼吸が止まります。

もし、期待する効果が咳止めならば、腸での蠕動運動が止まって便秘になったり、呼吸が止まったりすることは期待していません。便秘と、呼吸が止まることは副作用といいます。
もし期待する効果が下痢止めならば、咳が止まったり、呼吸が止まったりすることは期待していません。なので、これらは副作用とよびます。

薬自体の毒性もあります。身体の構成成分を似せて作られているものは、もともと存在していないものです。その薬自体が臓器を傷つけることがあります。臓器を傷つけることは期待している作用ではないので副作用とよびます。

環境因子と薬~季節例:冬の皮膚症状の薬~

日本の冬はシベリア気団(寒冷・乾燥の性質をもつ)が大きく発達するので、気温が低くなります。大陸からの偏西風が強く吹きます。日本海側は雨か雪、太平洋側は乾燥した晴天が続きます。
ここでは東京の話をします。東京は太平洋側なので、気温が低く、湿度が低い状態が続きます。
気温が低く、湿度が低い状態は、皮膚がかさついたり荒れたりしやすくなります。

皮膚の最も外側に角層よばれる部分があります。これは外界から異物が体内に侵入するのを防ぐのと同時に、体にとって必要な水分や体液、タンパク質などが漏れないようにする大事な役割があります。角層は硬くなった細胞が何層も重なってできています。そのすき間は細胞や毛穴から分泌された脂質という油分が層状にになって満たしています。脂質は角層の細胞から水分が抜け出るのを防ぐ役割を果たしているのです。
この脂質が足りなくなって細胞から水分が逃げてしまうと、肌がかさつき、荒れやすくなります。気温が低い状態では分泌される脂質が減るためです。また、湿度が低い状態では角層の細胞から水分が逃げやすくなります。
脂質が足りなく、水分が逃げてしまった角層は、外界から異物が侵入しやすい状態になります。異物が侵入すると、炎症がおこり、かゆみが起こります。

かゆみが強い時はステロイド薬を使います。
ステロイドは炎症を抑える効果が高く、皮膚に対する刺激が少ないので使いやすいです。
かゆみが強い部分が広範囲になると、受診するようにします。副作用が出やすくなるためです。主な副作用は、薬を塗っている場所が感染しやすくなること、全身作用が出てしまうことです。よく見られる全身作用には、満月様顔貌、皮膚委縮、月経異常、消化器障害があります。
医科向けでは、クロベタゾールプロピオン酸エステル、ジフルプレドナート、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルなどを使います。
市販では、ベタメタゾン吉草酸エステル、フルオシノロンアセトニド、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルなどを使います。

合わせて保湿剤を使うようにします。
保湿剤は皮膚に必要な水分と油分を補うものです。

医科向けではヘパリン類似物質軟膏がよくつかわれます。水分を保持する効果があり、皮膚の血流を増やす効果があります。出血しやすくなるので傷口には使えませんが、刺激がなく使いやすいものです。

市販でなじみがあるのが、尿素配合製剤です。
尿素は水分を保持する効果と、角質を溶かす効果を合わせ持っています。皮膚の固い場所を柔らかくするために使います。皮膚の刺激感があるので、皮膚の薄い場所には使えません。
市販の尿素配合製剤は基材の固さ、柔らかさだけでも多種あります。さらにかゆみ止め成分を配合することができるので、各メーカーいろいろな種類があります。

保湿剤は医薬品だけでなく医薬部外品や化粧品の分野でも多く出ています。
その一つがセラミド配合剤です。
セラミドは角層に含まれている脂質成分で、角層細胞同士をつなぎとめる働きがあります。セラミドがある事で、内側からの水分の蒸発を防ぐとともに、外側から異物が混入しないようにバリアができています。セラミドを外から補うことで保湿効果が期待できます。
セラミドローションを下塗りして、症状の強いところにステロイドを塗るという治療をしている患者さんにも出会っています。
また、リピジュア(R)を配合された保湿剤もあります。リピジュア(R)とは細胞膜のリン脂質の成分をモデルに開発された成分です。ヒアルロン酸の2倍の保湿力があるといわれています。

環境要因と薬~季節例:夏の症状の薬~

日本の夏は太平洋高気圧(温暖・湿潤の性質をもつ)がはりだし、気温が高く、湿度が高い状態が続きます。蒸し暑い季節です。
気温が高く、湿度が高い状態は水虫菌(真菌)にとって繁殖しやすくなります。
一般に20~40度、60%以上の湿度を好みます。
水虫菌はケラチンを食べて生きているので、ケラチンが多くある場所、ヒトの皮膚の中でも足の皮膚に住みついてしまいます。

水虫の治療ですが、水虫菌に効く薬を使います。市販で効果の高い薬が出ていますので、まじめに塗れば治ります。症状が消えてからも塗る必要があるので、塗り忘れしやすくなります。

一方、細菌は一般に35度前後で繁殖しやすくなります。湿度はほぼ100%必要です。
なので、水虫のような感染の仕方はないのです。
ところが、ヒトは気温が高く湿度が高い状態で、汗をかきます。
このため、湿度100%の状態を作る事ができます。
細菌繁殖に必要な栄養は汗の成分と皮膚のアカを利用します。汗の成分は塩化ナトリウムが約0.6%、その他ごく微量の尿素や塩素、カルシウム、マグネシウム、乳酸などのミネラルで構成されています。
汗をかいていい水分環境があること、汗の成分と皮膚のアカという栄養があること。
細菌発育3条件(温度・水分・栄養)をすべて満たしています。

少しの傷でも細菌が入り込めば、あっという間に繁殖します。とびひという症状です。
細菌が繁殖した食べ物を食べれば食中毒になります。下痢や発熱という症状がでます。

細菌感染の治療ですが、細菌に対応した抗生物質を処方してもらうことと、対症療法を行います。

大量に汗をかくことで、汗腺がつまる症状があせもです。
汗腺がつまって炎症がおこるとかゆみが起こります。

あせもには、酸化亜鉛軟膏を使います。酸化亜鉛には収斂作用と抗炎症作用があります。また、皮膚の保護、滲出液の吸収性がありますので、皮膚がべとつく場所に使うと、さらっとします。症状に応じてステロイド軟膏を使います。
そして、虫たちもこの温度と湿度は活動的になります。
虫さされは夏の症状では代表的なものです。この虫の中で代表的なものが蚊です。蚊は産卵のためにヒトの血液を栄養としています。ヒトの血液を採取するために刺します。刺した時に蚊の成分が混じりあい、炎症が起きるのです。
炎症の度合いに応じて抗ヒスタミン薬だけですむ場合と、ステロイド薬が必要な場合があります。抗ヒスタミン薬だけですむ場合が多いです。

遺伝子と環境子:薬の相互作用の例~家族性高コレステロール血症(FH)~

ここではLDLに代表される、薬との相互作用の例を記します。

LDLとは: low-density lipoprotein

LDLとはLow-Density Lipoproteinの略語です。LDLコレステロールなどという言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。
日本語でLow-Density Lipoproteinは低比重リポたんぱく質と翻訳されます。これは血清におけるリポたんぱくの主要分画の一つで、肝臓で作られたコレステロールを血液を流れることで運ぶ働きを持っているものです。

LDLは血中をめぐり、末梢組織にコレステロールを届けるという役割があります。
末梢組織でLDLを取り込むために必要なのが、LDL受容体というものです。
LDL受容体が遺伝子変異を起こしLDLの機能が落ちてしまうと、血中にLDLが多くなります。血中のLDLが多くなると、動脈硬化が起こりやすくなり、それに伴って心筋梗塞、脳梗塞などの重篤な病気にかかるリスクが高くなります。

LDL受容体遺伝子のうち、片方だけ異常がある場合をヘテロ接合体、2つとも異常がある場合をホモ接合体と呼びます。これは優性遺伝をとり、片方でも異常遺伝子があれば、LDL受容体の働きが落ちてしまいます。知人の薬剤師は家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)であり、その母親が高コレステロール血症、父親は健常人です。

LDL受容体が多くあるのが肝臓で、そこでLDLが取り込まれて代謝されます。ヘテロ接合体患者は健常人の約50%に低下しています。そして、ホモ接合体患者は健常人の10%に低下しています。

LDL受容体の遺伝子変異は1000以上あることが確認されています。
そして、確定診断のために遺伝子検査として調べているのがこれです。
・LDLレセプター遺伝子変異C317S
・LDLレセプター遺伝子変異1847T-C
・LDLレセプター遺伝子変異P664L
・LDLレセプター遺伝子変異K790X
・LDLレセプター遺伝子変異E119K
・LDLレセプター遺伝子変異L547L

遺伝子検査をしなくても簡易的に診断をつけることがあります。
・二親等以内に家族性高コレステロール血症患者がいる。
・未治療時のLDL値が180mg/dL以上ある。
この2点が両方当てはまれば家族性高コレステロール血症と診断されます。

ホモ接合体患者は難病指定されておりますので、早期に治療が必要です。
薬物治療はもちろん、血中のLDLを血漿交換(LDLアフェレーシスという)により物理的に除去する治療もやります。

ヘテロ接合体患者は積極的に薬物治療をします。
運動して、食事も気をつけて、というのを待たずに開始です。もちろん、運動と食事も必須です。
薬物治療はHMG還元酵素阻害薬を使います。この薬はコレステロール合成を抑えるものです。
・プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン
・アトルバスタチン、ピバスタチン、ロスバスタチン
後半3つはストロングスタチンと呼ばれる薬で、強力にLDLを下げる作用があります。薬物代謝酵素による影響、薬による肝障害の影響などを判断して選びます。
小腸でのコレステロール吸収を選択的に阻害する薬として、エゼチミブがあります。
エゼチミブをストロングスタチンと併用することで、難治例に効果があるといわれています。

文:KK (薬剤師)
編集:TM